朝日新聞に人生相談のコーナーがあります。
回答者の一人に車谷長吉氏がおられます。
率直であけすけの表現で痛い所を突いてなかなか面白く読んでいます。
車谷氏は13年前「赤目四十八瀧心中未遂」で直木賞を受賞した人です。
苦労人で下足番や料理店の下働きなど様々な職業を転々しながら文章を書き続けた作家です。
たまたま熊野市図書館で手に取ったのがこれ。
「文士の魂・文士の生魑魅」
明治から昭和までの作家の中で彼が興味を惹いた人々を
俎板に乗せ彼独特の切り口で解説しています。
その中からほんの少しだけつまみ食いしてみましょう。
「近代日本の小説でベスト・スリーを選ぶとすれば、どういう作品となるだろう、
ということになって、まず私が夏目漱石の「明暗」、幸田文の「流れる」、
深沢七郎の「楢山節考」を挙げた。」
「近代人のエゴイズムを描いて、近代日本の小説中「隋一」の傑作であることを疑わない。(「明暗」)
「小説の醍醐味は短編小説にあると思うている。
短編小説の名手といえば、まず一番に永い龍男に指を屈するに如くはないだろう」
「比類のない名文である。恐らく近代日本文学中、髄一の名文であろう。(中島敦「山月記」)」
「この晩年という作品集の魅力は私小説だけでなく、
太宰治の文学的才能が万華鏡のごとく凝縮している小説集であって」
「世には、一読戦慄に鳥肌が立つような悪の小説があるが
大岡昇平の「沼津」は三島由紀夫「怪物」と共に、まさにそういう作品だった。」
「三島が牛の涎のごとくたれ流す、
美と不具者についての哲学的考察については辟易した。
はたしてこれが小説の文章だろうか。」(三島由紀夫「金閣寺」)
まだまだいろいろ面白い話が出てきますが、今回はこのくらいで。
車谷氏は書いています。「昭和40年代の末、私はまだ20代だった。
その頃、東京新宿の文壇バーで文壇雀たちに
「いずれ中上健次・車谷長吉の時代が来るだろう。」と言われた一時期があった。
和歌山の作家中上健次が若くして亡くなったのは残念なことです。
手作りオーダー家具の林工亘
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